むつ市民に安全で美しい故郷を

                              安藤 晴美

山を降りるときに涙がこみ上げてきました。

9月9日むつ市の釜臥(かまぶせ)山に登った時のことです。この日は、すばらしい晴天に恵まれ、山の上から陸奥湾やむつ市の町並みがきれいに見渡せました。また、北側には、恐山の宇曽利山湖が間近に見え、海を隔てた先にはうっすらと北海道の山並みも見て取ることができました。その美しさに本当に感動しました。

以前に、県議会の委員会調査でむつ市を訪れた際に泊まったホテルから見えたこの山を、ホテルのオーナーが自慢して説明してくれました。釜をかぶせた様な形から釜臥山といい、むつ市民にとって大切な心のよりどころの山だということを。実は、私は釜臥山のことをこの時初めて知り、「岩木山に比べると形はいまいちだ」などと好き勝手なことを考えていました。

しかし、今回その山に登って見て、むつ市民の皆さんが大切にしている山だと言うこと、自慢する山だと言うことがしみじみと分かりました。この山は、霊峰でもあり、大切な動植物が多数存在しているかけがえのない自然の宝庫でもあるということを実感したのです。

今回涙がこみ上げてききたのは、この美しい景色に感動したからではなく、こんなにすばらしい山に、我が物顔でとてつもない軍事レーダーが建設されている悔しさからでした。この山の頂上に35メートルに及ぶ巨大なFPS-5という軍事用レーダーが建設されているのです。FPS-5は、亀の甲羅のようなレーダーを持つというのでガメラレーダーとも言われています。

今年の夏、むつ市の街を車で通過して脇ノ沢までサルの調査に出かけた際、この山の上に立つガメラレーダーを見てはいましたが、山に登って間近に迫ってくるガメラレーダーをみると、その図体の大きさを実感することが出来ました。頂上に登るには、むつ市の町から約1時間ほど車で走って到着する釜臥山駐車場から、さらに30分ほど徒歩で階段を登り詰めなければなりません。階段の脇には、フェンスがはりめぐらされ、その中は自衛隊駐屯地であり、何台も隠しカメラが作動し、山の頂上をめざす人々の監視をおこなっていました。銃の設置台とおぼしき物まで用意されているのには驚きました。

私を、ここに連れてきて下さったのは、むつ市平和委員会の柳谷睦夫会長さんと村上準一事務局長さんです。前夜、むつ市平和委員会主催で「ガメラレーダーについての県の見解を問う」という議会報告をさせていただいたのです。

むつ市では、「霊峰釜臥山を守る会」ができ、釜臥山レーダー配備に反対する運動が広がっています。

建築に際し一番腹立たしいことは、この山が国定公園になっており、「自然公園法」で都道府県知事に対し、「高さ13bの建築物や高さ30bの鉄塔は、届けでなければならない」とされ、ガメラレーダーが35bの高さであることから、本来届け出の基準にも違反していることは明らかです。県は、「レーダーは機械であり、建築物には当てはまらない」とし、結局なんのおとがめもなく、国定公園内に巨大なレーダーが建設されているのです。

しかも、これらは日米ミサイル防衛システムの一大拠点となることです。北朝鮮や中国からミサイルが発射されると、まずアメリカの早期警戒衛星が探知し、三沢のJTAGUSに伝えられ、ここから情報を受けた車力(つがる市)のXバンドレーダーがミサイルの飛んでくる方向等を精密に捉えるのですが、遠くまで届かないため、精密さに欠けるが遠くまで探知できるガメラレーダーが必要になるというのです。

ミサイル防衛は、核先制攻撃を可能にする攻撃的なもの。なぜ、戦争放棄を宣言した日本がアメリカと共にここまで突き進まなくてはならないのですか。

青森県が何の異議を唱えることなく、釜臥山にガメラレーダー建設を認めてよいのか、今後もむつ市及び県民の皆さんと共に大いに告発していきたいと思っています。

よく県が議会での質疑の際に「国の専管事項であるため、県としての考えは控えたい。」と答弁します。ならば、沖縄の普天間基地はどうなるのでしょうか。沖縄県知事が堂々と普天間基地撤去(移設)を求めているではありませんか。青森県知事は、むつ市の豊かな自然を守るためにも、勇気をもって毅然とした態度で釜臥山を守る行動に出るべきであります。ガメラレーダーを撤去させ、本来の美しい山をむつ市民に返せ。(「弘前民主文学」139、2010年12月15日)